最高裁判所第三小法廷 昭和31年(あ)1061号 判決 1958年10月07日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人小沢茂の上告趣意第一点は、原審は、被告人が司法警察職員より、他人及び自己の犯罪事件捜査のため、外国人登録証明書の呈示を求められた際、他人の外国人登録証明書を、恰も自己そのものの如く装って呈示したことを以て、外国人登録法一八条一項九号に該当するとした第一審判決を是認したが、この場合外国人登録証明書の呈示を拒むときは処罰せられるのであるから、呈示を求むることは即ちその強要に等しく、而も呈示することが犯罪を自ら供述するに異らない結果となるのであるから、原判決は憲法三八条一項に違反すると主張する。憲法三八条一項は、何人も自己の刑事上の責任を問われる慮ある事項について、供述を強要せられないことを保障したものであると、解すべきは所論の通りである。しかし、外国人に対し、外国人登録法三条一項所定の登録申請の義務を課し、警察職員がその職務執行の必要上、外国人登録証明書の呈示を要求したとしても、憲法三八条一項に違反したものとなし得ないことは、当裁判所の屡次判例の趣旨とするところである。この趣旨よりして、外国人登録証明書の呈示を求めることは、これにより、当該外国人の居住及び身分関係の識別に必要とする事項が明らかとなるに止まるのであって、刑事上の被疑事実に関する不利益な事項につき、供述を強要することとなるものと解するを得ないこと明らかである。所論違憲の主張は当らない。(昭和二九年(あ)二七七七号同三一年一二月二六日大法廷判決、集一〇巻一二号一七六九頁、昭和二七年(あ)八三七号同三二年二月一〇日大法廷判決、集一一巻二号八〇二頁、昭和二九年(あ)一九九三号同三三年一月一六日第一小法廷判決、集一二巻一号一頁。)
同第一点その余の論旨は、原判決に、単なる事実誤認及び法令違背あるをいうに止まるのであって、上告適法の理由とならない。
同第二点は、原審の判例違反をいうけれど、引用の判例は、本件と全く類を異にした事案に対して示されたものであって、本件には適切でない。
論旨は、いずれも刑訴四〇五条の適法なる上告理由には当らない。
また記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。
よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 石坂修一 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己)